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#Feature SHOKKI
FEATURE
INTERVIEW with SHOKKI
at the SHOP/STUDIO
Ceramic label
セラミックレーベル SHOKKI
「諦めることで新しさを獲得できるかもしれない」
アート作品なのか? 実用品か? 手の跡が残る一点ものだけどマルチプル。ずらりと並べばまるで大量生産品のパロディにも見えてくる。なんとも愛でたい脱力と謎の存在感。私たちHappeningsがハンドメイド・セラミックレーベルSHOKKIに共感するのはこんなユーモアとアマチュアリズムを讃えるような匿名性に他なりません。これらのプロダクトはどんなアイデアから生まれているのでしょう? そういえば先日、岡山から大阪にお引越しコンセプトショップをスタート、と新展開も気になるところです。
ーー大阪・枚方公園駅にお引越されたのはいつでしたっけ?
契約は(2021年の)4月からですが、予算が無かったこともあり改装に時間がかかって。オープンは12月からですね。
ーーこれまでは岡山市内に工房があったんですよね。
スタジオは赤磐市ですね。実家が岡山市で。赤磐市ってあんまり知られてないと思うんですけど、桃農家さんが多いような町ですね。
ーーSHOKKIをスタートさせたのは2013年からですね。
当初は趣味でやっていたので、こんなことになるとはまったく考えてなくて。最初はお小遣い稼ぎ的にやってたんですけどね。友達にあげてもいいくらいの感じで。
ーーそもそも陶芸を始めたきっかけは?
大学生の頃に好きだった女の子が陶芸をやっていて、彼女に近付くために(笑)
ーー彼女から陶芸を教えてもらって?
いや、僕がロンドンに交換留学に行ってたんですけど、大学に戻ってきたら、彼女は卒業して信楽の「滋賀県立陶芸の森美術館」のレジデンスに行ってたんです。彼女と連絡を取っているうちに陶芸って面白そうだなって。で、僕もレジデンスの申請をしたら通って、1ヶ月だけ行けることになりました。でも行ったはいいけど、なにを作ればいいのか? まったく分からなくて。
ーー彼女が目当てですもんね。最初はなにを?
とりあえずコップを作ってみようと。
ーー軽い気持ちで。
そうですね。でもコップって毎日使ってるけど、どう作っているのか?なんて考えたことなかったし、この土を焼けばツルテカになるんだ、とか素朴な驚きもたくさんあって。それから毎日コップを作ってました。楽しくなってきて。
ーー彼女も近くにいますしね。
ある時、谷本(真里)さんっていうアーティストの友人が信楽に遊びに来たんです。谷本さんが僕の作ったコップを見て、“これから京都で「みず色クラブ」っていう店を始めるから(商品として)扱いたい”と言ってくれて。
ーー「みず色クラブ」に置かれたことがSHOKKIの始まりだったり?
そうですね。感謝です。それから作る数が増えていったんですね。(南魚沼市にあったギャラリー/ショップ)「poncotan」にも置いてもらったり。
ーーSHOKKIという名前はその頃に付けました?
そうです。僕は本名で別に作家活動をしているんですけど、それと差別化したくて。
ーーなぜSHOKKI(食器)なんです?
当時の彼女に提案したらいいんじゃない?”って言われて。僕もそれでいいかなって。あんまりなんにも考えず(笑)。ちょっとコップとか作れたら楽しいなって思ってたくらいの頃なんで。
ーーSHOKKIが広がってきたことで陶芸に目覚めました?
いや、いわゆる陶芸って堅い世界だなって今も思うんですけど、その世界にはほとんど興味が無くて。抹茶碗になるとすごい高いとか、価値観が難しくて、簡単に手を出せないというか。その業界でしか成り立たないルールが多いこともあって。
ーーなるほど。信楽で滞在制作をした後は実家のある岡山県に戻られるんですよね?
例の彼女と別れてしまって…。つまり陶芸をやる当初の純粋な目的はすぐになくなってしまったんですが...。ちょうど大学を卒業するタイミングでもあったので、それで岡山の実家に帰りました。
ーー陶芸を続けてみよう、と。
陶芸はとりあえず納品依頼があったので、それをこなすために陶芸教室を探して見つけました。そこはユルくて良かったですね。平日の昼間からおじいちゃん、おばあちゃんたちと一緒に作ってました。
ーーSHOKKIのプロダクトはその陶芸教室の窯で焼いてたんですか?
陶芸教室と...あと、大きめの公民館って陶芸窯があったりするんですよね。そこでは「わくわく陶芸クラブ」などという団体名で、おじいちゃんたちがグループで陶芸を楽しんでいました。僕はクラブには入らずに、そこでひとりで焼いてました。でも平日の昼間に若者がひとりで大量に焼いてると目立つし、かなり怪しまれるんですよね。今だから話せるんですけど、ほんとは営利目的で使うのはダメなんですね。
ーー公民館ですしね。
ある時、受付のおばちゃんに“あなた、ビジネスやってるでしょ?”って見抜かれて。でも“やってないですよ!”って。その場は乗り切ったんですけど。公民館で焼くのはもう難しそうだし、自分で窯を買うしかないと思って。
ーー急遽、窯を買うことに?
展示会があったり、注文もどんどん入ってきてて。でも窯を買ったとしても実家のマンションには置けないし、どうしようかな?と。で、賃貸で窯のおける物件を探したんですが、うまく見つけられず。
ーーそこで赤磐市の古民家をスタジオとして購入した、と。
農家の広い家が安く売られているのを母親が見つけたんですね。岡山に「住まいる岡山」っていうサイトがあるんですけど。
ーー不動産物件を紹介する?
そうです。僕と母親がそれに一時期夢中になって。“母さん、あの物件見た?”とか言って(笑)。ある時、母親が“ここ、いいんじゃない?”って。農家さんの古民家で、いろいろ含めて380万円くらいの物件ですね。ぜんぜんお金が無かったので借金して買いました。
ーー決心しましたね。
決心した、というより仕方がなく、っていう気持ちですね。とにかく一刻も早く窯を買って置けるところを探さないと、っていう気持ちで。
ーー物件を購入されてからはSHOKKIのモチベーションは変わりました?
粘土を捏ねて楽しいなっていうピュアな気持ちは最初の2年くらいで終わりました。最初から予想はしていたんですが、モチベーションを保つのがこれから大変になるな、と思ってた頃ですね。
ーーそこでなにか新しいアイデアを生み出した?
つくるものだけでなく、その見せ方とかブランドとしてのSHOKKIをどう運営、展開していくのか?を考えたら飽きないんじゃないかと。
ーー自身でSHOKKIの楽しみ方に変化を付けていく、と。
最初は作ることを純粋に楽しんでいて、その次はブランドとしてどう見せていくか? 運営していくか?を楽しんで。そうやって自分の興味の対象をシフトさせていくことで今も作り続けていますね。運営を考えるのも粘土を捏ねるのも、自分はSHOKKIというブランドの社員なんだ、と捉えつつ。
ーー粘土を捏ねることからブランドの見せ方など、運営も客観的にひとりで考えてみる?
自分自身もSHOKKIに対しての見方をちょっとずつ変え続けている感じですね。お客さんの感想やお店からオーダーをもらったときに、こんな風に見てくれているんだっていうのが面白いこともあって。
ーーSHOKKIのコンセプトは“ま、いっか。くらいの気楽さと自由さ”。そのココロは?
陶芸って窯で焼くことで完成するので、それは焼き上がりを受け入れざるを得ないわけですね。一番最後は触れられないと言いますか。それがいいなと考えていて。諦めが付くというか、最後まで自分の意図を入れられないというか。
ーー最後は窯に任せる、という実験?
手を動かす前にイメージしたものを作るだけだと、自分の場合は新しいものが生まれづらいな、とも考えていて。だから諦めて結果を受け入れることで想像もできない新しさを獲得できるかも、と期待もしていますね。最初の頃は粘土の量がよく分からなかったので、マグカップを作るつもりが(サイズ的に)花瓶になった(笑)。ほんとは今もそんな作り方をしたいんですけどね。
ーー委ねることで予期せぬ新しさが生まれるかもしれない、と。
もちろん焼き上がってきたものに対して、作り手としては、これいいなとか、これいまいちだなとかは感じるんです。でもどんな結果もすべて受け入れることにしているんですね。
ーー不揃いのデコボコを受け入れる、と。
そういえば、岡山で通ってた陶芸教室で「うぶごえ展」っていう、そこに通うアマチュアの人たちの展示があるんですね。作品にはタイトルとキャプションが付いているんですけど、そこに「ZAKKI」というタイトルの手捻りの作品があったんですよ。
ーーSHOKKIの真似?
そうだと思います(笑)。僕が陶芸教室で大量に焼いていた頃、作品の裏に「SHOKKI」ってサインを入れていたので、おじいちゃんなんですけど、多分それを見て「ZAKKI」(雑器)ってタイトルを思い付いたんだと思うんですね。そういう風に広がっていくんだっていうのが面白かったし、これでいいんだとも思えた。
ーーそう思えた理由はどのようなものでしょう?
純粋さを忘れたくないというか。誰でも作れるってことが良いんだって感じたことがあって。だからSHOKKIの活動を通して、みんながアマチュアが作ったものの面白さをたくさん発見できるようになったらいいな、と。そんな気持ちもありますね。
ーーあらためてSHOKKIは作品なのか? 実用品なのか? 手捻りの一点ものだけどマルチプルで、ずらっと並ぶと大量生産品のパロディのようでもあるような。目指すところは?
あんまり自分でSHOKKIについて言わないようにしてるんですけど、僕の好きな傾向を考えると、手作り雑貨とか可愛いものにはあまり興味がなくて。それに手で作っていること、その跡が残っている造形にも僕自身は無頓着だと思います。一方で「手捻り陶芸」って括って良いのか分からないけど、その原型のようなものを目指しているところはありますね。作家の個性が無いものを参考にしたり。2018年あたりは無印良品やユニクロのやり方をよく見ていました。
ーーデコボコだけど匿名的で。それが作家性といえるかもしれません。
デコボコしているけど、作り手としてはアノニマスななにかを目指しているのかもしれない。ちなみに自分が日常で使いたいと思うものはアノニマスなものの方が好きなんです。
ーーこれまで多くのアーティストとコラボレーションをされていますね。それはなぜでしょう?
SHOKKIを始めた頃、まずはSHOKKIのような専門的な知識や技法のない陶芸が受け入れられる土壌を耕さないといけない、と考えてました。海外だとそういうのがあったんですけど、国内では当時あまり見当たらなくて。だから最初コラボレーションする意味のひとつは、いろんな人と一緒にやることによって、こういう陶芸のスタイルやSHOKKIを知ってもらう、という目的がひとつあったんです。それと当時SHOKKIが一人の作家名として扱われることに違和感があって。SHOKKIという作家の名前を消して、「レーベル」として存在させていくためにいろんな人とコラボレーションさせてもらった感じですね。
ーー作家性を薄めていきたい?
そうだったんですけど、実際は強まってしまったんですね。いろんな人とコラボレーションすることで、自分も知らなかった僕自身の個性が見えてきちゃったんです。自分の個性を意識するようになったというか。
ーーそれまで無意識だったこだわりが見えてきた、ということですね。
SHOKKIには自分の個性は無い方がいいなって最初は思ってたんですけど、最近は素直に個性を反映させてもいいのかなって考えていますね。自分の個性をあんまり信用していないところもあるけど。SHOKKIとして発表する回数が増えて、作り手としての意識が強くなってるし最初の気持ちと変わってるところもあります。
ーー発表を重ねることで考えが変化してきたところも?
制作に関してだと、完成の予測が付くようになってきて。予想ができてしまう、という面白く無さもあって。だから今は予測が不可能なことを意図的に取り入れたりしています。例えば、釉薬を何回か重ね掛けしてみたり。年4回発表する、その時々のコレクションで実験している感じですね。
ーーコレクションでは毎回どのくらい制作されるんですか?
ほとんど一点ものの手捻りで、マグカップ、タンブラー、平皿、ボウル、花瓶、バスケット、オブジェなど10種類ほどですね。その時のコレクションの技法によっても種類や数は変わるんですけど、全部で150点とか。(アート作品のように)オブジェをひとつだけ作る、というのはあまりないですね。
ーー大阪・枚方公園駅に引越された理由は?
引越はコロナ前からパートナーと考えていて。彼女が京都で仕事をすることが多いこともあって。それで京都で探してたんですけど、陶芸のスタジオとパートナーのシルクスクリーンの工房を作らないといけなくて、予算的にちょうど良い物件が見当たらなくて。京都を中心に半径を拡げて探したら、枚方公園駅に面白い物件があるなぁ、と。
ーーこの枚方公園駅の建物は元々クリーニング屋さんだそうですが、ギャラリー/ショップに改装されて、名前を「MALL」と付けられていますね。
「MALL」はこの建物全体のことを指していて。スタジオもショップもテナントのように入っている、というコンセプトで。ショップにはパートナーが担当するジンのコーナーもあるし、シルクで刷った服もあります。小さい規模だけど、ショッピングモールみたいになったら面白いねって。
ーーSHOKKIに関してはどんなプロダクトを「MALL」で展開される予定ですか?
過去にコラボレーションしたものなど、なかなかお披露目の機会がないけど、SHOKKIのコンセプトをより反映しているプロダクトを扱おうと考えています。一点もののマグカップとかはすぐに売れるんですけど、他にもっと面白いものも作ってるんだけどな~という気持ちもあって。
ーー順調です?
人がぜんぜん来なくてヒマですね。このままだと早々に閉店しちゃうので、みなさんぜひ気軽に来て欲しいです(笑)
SHOKKI
2013年にスタートしたハンドメイドのセラミックレーベル。「ま、いっか。」くらいの気楽さと自由さで、食器や鉢、オブジェなど一点もののプロダクトの企画と制作を行う。2021年より大阪・枚方公園駅近くにショップ、ギャラリー、スタジオなどが集合するコンセプトスペース「MALL」を構える。
https://shokki.org
MALL
大阪府枚方市三矢町7-11
土日祝日のみ営業 第2日曜休
12:00PM~6:00PM
2022年5月末まで「SHOKKI SHOP」、出版レーベル「pharmacy」によるジン等を扱う「薬局」がオープン。音楽家nensowによる、枚方などでのフィールドレコーディングを元にしたインスタレーション作品の展示も。
撮影 中村寛史
https://nakamurahiroshi.net