FEATURE

INTERVIEW with KATSURA KUNIEDA
at the museum

KYOTO City KYOCERA Museun of Art curator

京都市京セラ美術館 学芸員 国枝かつら
「京都には挑戦できる空間が必要」


2020年、京都のアートシーンを語る上では外せないでしょう。京都市京セラ美術館(京都市美術館)が装い新たにリニューアルオープン。あらためて、1933(昭和8)年開館という時の重みが真空パックされたかのような、ますますのレトロモダン。当然、この歴史が追い越されることはない。けれど、そこに胡座をかくだけじゃないスペース「ザ・トライアングル」などもお目見え。というから俄然注目したいところ。学芸員の国枝かつらさんにお話をおうかがいします。


ーー京都の街が持つアートへの関心は高いと感じます?

文化が分かること=良いこと、その考えが強いのかな。自分たちの街が文化的である、というプライドを感じますね。伝統芸能の力も強いし。早期オープンを望む市民の声が多く、美術館のオープンをすぐに諦めなかったところとか。

ーーリニューアルオープンをちょっとずつ延期してたところに静かな執念を感じました(笑)

そうですね(笑)

ーーリニューアルオープンへの流れの中で、美術館と地域の関係性などあらためて気付いたことはあります?

まず、ここはもともと市民ギャラリーとしての機能や貸館として運営することも多かったので、“自分たちの美術館”という認識を持ってくださっている地域の方が多い、ということですね。だから今回の改修に関しても自分たちの事として捉えてくださっている、という印象です。

ーー以前から周辺の美大とも関わっていますしね。

例えば、京芸(京都市立芸術大学)をはじめ、京都精華大学や京都芸術大学(旧・京都造形芸術大学)、嵯峨美術大学、成安造形大学などの卒展が毎年ここで開催されていた伝統もあるので、いま活躍されているアーティストも学生の頃にここで展示した、という方も多い。そんな昔の思い出も見つけられるような、いい部分を残す改修になっていると思います。


ーーでは現在の京都のアートシーンの特徴を挙げるなら?

アーティストが多くて、それにサポートする方も多い、という印象ですね。いろんなコミュニティが構築されているところはアーティストにとっては良い環境だと思いますね。

ーー逆にコミュニティがあることで悪い部分があるなら、それはどんなところだと考えます?

それぞれのコミュニティが分断されてしまうと、アーティストがひとつのコミュニティの内側だけで回っている、ということになるので外に出るのが難しくなってくる、という状況はあるかなと考えていて。

ーースモールサークルの中だけで?

そうですね。例えば、身内だからこそ、安いギャランティで仕事が回るなど、そんなこともあると思います。そうなるとコミュニティが、アーティストに対して協力体制を持っている、というより相互扶助の組織のように見えてくるというか。

ーーアーティストは多い。サポート体制も整っている。けれどそれが豊かとは言えないかも?

アーティストがコミュニティの内側から外へ出て行くときに(学芸員として)なにができるのか? それはいつも気になってますね。


ーーというところで京都市京セラ美術館の一角には「ザ・トライアングル」というスペースが登場しましたよね。

はい。この「ザ・トライアングル」はとてもポテンシャルがある空間だと捉えています。

ーーまだ価値の定まっていない新進アーティストの展示など、ちょっと実験的な試みも行うスペースだそうですね。

そうですね。例えば、いわゆる(公の)美術館だとスペースが大きくて、必然的に予算規模も大きくなってしまう。そうなると入場者数など規模に応じた結果を残さないといけなくなりますよね?

ーーなるほど。アーティストがチャレンジしにくい状況になると。

最初からマスを相手にしないといけなくなってしまう。京都市の美術館として、さまざまな地域のアーティストや市民とどうやってつながっていくのか? を考えたときに「ザ・トライアングル」が果たす役割は決して小さくはないと考えています。

ーー地域とのどんなつながりを想像されています?

京都の美大との連携や、今のアーティストや作品と市民をつなげる場所として大きな役割を果たせるかな、とは思っています。もちろん美術館の内部でいろいろな調整は必要ですけどね。でも、こんなスペースがないと面白くないじゃないですか? 失敗できる空間というか、新しいことに挑戦できる空間がないと。

ーーアーティストのチャレンジ、そして地域とのつながり。「ザ・トライアングル」にポテンシャルを持たせる理由は他にもあります?

アーティストと美術館が共にリスクを持ってやっていくことは重要だと考えていて。個人的に、ですが生きているアーティストと仕事をする、ということはそういうことじゃないかと考えています。


ーーところで、ちょっと話はずれるんですが、美術館の学芸員ってどんなお仕事でしょう?

展覧会を作る仕事で、アーティストと話をしたり、予算を管理したり、いろんな手配などさまざまです。足りないものがあれば探し回って見つけるとか。基本的になんでもやりますね。

ーー学芸員の仕事の魅力とは?

私の場合は、作品の近くにいられるところですね。じっさいに作品に触れることもありますし。あと、学芸員はアーティストの制作や思考のプロセスと並走できるところが魅力ですね。

ーーアーティストの考えの受け手になるような?

そうですね。決して外には出さないですけど、私はこれまで展覧会を担当したアーティストとのやりとり、メールなどは残しています。アーティストの考えが変わっていくこともあって。そのプロセスが興味深くて。

ーー展覧会に向けてアーティストと常に一緒のお仕事なんですね。

でもアーティストのマネージメントをしているわけではないので独特なポジションだと思います。一定の距離があるからこそ学芸員にしか見えないものもあるとは思いますね。

ーーさきほど“生きているアーティスト”の話がありましたが、美術館ではすでに亡くなっているアーティストの作品を展示することの方が多いですよね?

そうですね。美術館は今の時間軸だけではなくて、自分が死んだ後も続く、大きな時間軸の中で運営されているので、それを踏まえて働いているというか。学芸員にはそういう方が多いとは思います。私の場合、もちろん美術は好きなんですけど、そんな大きな時間軸を持った公共性の中で働けることがいいな、と思っています。

ーー生きているアーティストと亡くなっているアーティスト、展示に関して、その違いを考えてみると、あらためて興味深いです。

人によって様々だと思いますが、私の場合は、亡くなっているアーティストの展覧会を作ることの方に、怖さを感じることが多いです。本人の考えやリアクションを聴けないまま、勝手に展覧会をしているような気がするというか。

ーーなるほど。では最後にお聞きします。国枝さんが考える京都市京セラ美術館の目指すべき方向とは?

“国際”を謳ってはいるんですが、そこだけでなく京都市の美術館でもあるので、地域のことも踏まえて、両方のベクトルを持ちながらやっていかなくては、と考えています。それに加えて、現代美術や今を生きている人たちの受け皿として「ザ・トライアングル」があって、すぐ横ではいわゆる巨匠と呼ばれるアーティストの作品もある。その両方のベクトルも意識していかなくては、と考えています。



国枝かつら KATSURA KUNIEDA
京都市京セラ美術館 学芸員。丸亀市猪熊弦一郎現代美術館の学芸員を経て、ロームシアター京都へ。2019年から京都市京セラ美術館に勤務。東京都出身。

京都市京セラ美術館
京都市左京区岡崎円勝寺町124
Tel:075-771-4334
10:00~18:00
月曜休館 ※祝日の場合は開館
https://kyotocity-kyocera.museum


写真 中村寛史
https://nakamurahiroshi.net


※このインタビューは2020年4月に雑誌『カジカジ』京都アート特集の際に行ったものです。9月に終了した『カジカジonline』の許可を得て掲載しています。